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岡山地方裁判所 平成6年(ワ)754号 判決

原告

中右正和

被告

吉備交通株式会社

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、金一六万四三六八円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを八分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求

被告らは、原告に対し、金一八八万〇九一〇円を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

二  事案の概要

別紙交通事故目録の事故の際、被告安井は、加害車両を運転して現場の交差点を左折中、左側方不注意の過失により、自車前部を室屋安男運転の被害車両の右前部に衝突させ、同車に同乗していた原告に左大腿打撲の傷害を負わせ、原告所有の被害車両を破損させたから、被告らは、原告に対し、右受傷及び破損による損害について賠償義務を負うことは、当事者間に争いがない。

原告は、本件事故による受傷について全治には五カ月を要し、被告らが見舞いや示談交渉に誠意を見せず、手渡した診断書を返還しないで故意に訴訟妨害をしたとして慰謝料一二〇万円、原告所有の被害車両の格落ち損害として六五万円、原告の診療費として一万三三九〇円、室屋安男の診療費として一万二五二〇円、原告の診断書代として五〇〇〇円、以上損害合計一八八万〇九一〇円を主張するのに対し、被告らは、原告主張の全治五カ月の受傷、不誠意、訴訟妨害を否定し、被害車両の格落ち損害及び室屋安男の診療費を争い、原告の診療費一万三三九〇円及び診断書代五〇〇〇円は認め、原告の診療費は直接病院に被告ら側において支払済みである旨主張し、原告の人身損害額については一〇万円の限度で自認している。

三  判断

1  人身損害

原告は、全治五カ月間の受傷を主張するけれども、甲第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故の翌日である平成五年五月二五日河田病院外科診療所において左大腿打撲傷、左大腿内側手掌大の皮下出血あり、圧痛あり、湿布施行す、全治二週間の見込みとの診断を受けていたところ、翌二六日警察に逮捕され、以後勾留されているが、留置期間中本件事故による受傷について治療を申し出たことはなかつたことが認められ、これによれば、右主張は容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠もないところ、右診断結果に照らすと、本件事故による原告の人身損害は、受傷及び通院等による慰謝料や被告らにおいて認める診断書代を加味しても、被告らの自認する一〇万円を超えるものとは認められない。

ところで、原告は、被告らが見舞いや示談交渉に誠意を見せず、手渡した診断書を返還しないで故意に訴訟妨害をした旨主張するけれども、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は示談の席上暴力団組員であることを示して大声で誠意なるものを要求し、これに被告ら側は畏怖困惑し、対応に慎重を期したため、結果として原告の機嫌を損ねたものと認められるが、被告ら側に格別誠意を欠いた行動があつたとは認め難く、また、甲第七号証及び弁論の全趣旨によれば、被告ら側が診断書の返還に関して訴訟妨害をしたとも認められない。

さらに、甲第六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告主張の診療費一万三三九〇円は被告ら側において河田病院に対して直接支払済みであり、同号証(領収証)は別途同病院から原告宛に発行されたものであることが認められる。

なお、室屋安男の診療費を原告が被告らに対して請求することを是認し得るような事実を認めるに足りる証拠はない。

従つて、原告の本件事故による人身損害額は一〇万円と認めるのが相当である。

2  物的損害

原告は、原告所有の被害車両の格落ち損害として六五万円を主張し、甲第三号証中には、原告所有の本件事故前価格一三〇万円の被害車両を本件事故後六五万円で売却した旨の記載があるけれども、弁論の全趣旨によれば、被害車両の修理をした旭東オート販売に対して被告ら側で支払つた修理費用額は二一万四五六〇円であることが認められ、通常、交通事故による格落ち損害は修理費用の三割程度と認めるのが相当であるところ、被害車両についてこれを超える格落ち損害の発生を認めるに足りる特別の事情も見当たらないから、本件事故前の評価額と売却価格との差額六五万円をもつて直ちに格落ち損害と認めることはできないところであり、結局、被害車両の格落ち損害としては、右修理費用の三割に当たる六万四三六八円と認めるのが相当である。

四  結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、本件事故による人身損害及び物的損害として合計一六万四三六八円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

(別紙) 交通事故目録

発生日時 平成五年五月二四日午後一一時一五分頃

発生場所 岡山市柳町一丁目四番一四号先市道上

加害車両 普通乗用自動車(岡山五五う二一五二)

右保有者 被告吉備交通株式会社

右運転者 被告安井修一

右使用者 被告吉備交通株式会社

被害車両 普通乗用自動車(岡山三三ね七八〇八)

右運転者 室屋安男

右同乗者 原告

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